第8回 I TとA Iが生み出す社会とゴルフ市場の変化 その1

5月1日、元号が平成から 「令和」 に変わり、新しい時代が始まりました。 と言っても現実として、私たちの生活が1日の時間の経過で劇的に変わるわけではありません。
メディアや商魂にたけた企業が、千載一遇のチャンスと煽り立てているような気もしますが・・・。
ただ長期的な視点で未来を見ると、世界では 「第四次産業革命」 と称されるグローバルな構造変化の進行と、これと相反する自国主義の蔓延による新たな経済戦争が拡散し、日本では 「総人口の減少と少子高齢化」 の進行による、既存システムの崩壊現象(この問題については前回説明)が顕在化するといった、新たな変革の時代が始まっていることが、明らかになります。
それでは、令和の時代は平成の時代とどう変わっていくのか・・・、今回は生活者を取り巻く環境の変化と、ゴルフ市場へのその影響についてお話をしたいと思います。

■第4次産業革命 「IT」 「AI」 が支配する社会の出現
平成という時代を振り返えってみると、明治以降で初めて日本が直接戦争に関わることのなかった平和な時代であったことが、まず挙げられます。一方経済的な面でみると、日本の経済高成長がピークに達し、その後のバブル経済の崩壊やリーマンショックによる大きな混乱が短期間に発生するといった、浮き沈みの激しい時代であったと言えます。それに加えて、少子高齢化時代の到来が日本の社会構造を大きく変える予兆が、垣間見られるようになった時代でもありました。
ゴルフ市場も同様に、経済高成長期の追い風に乗り、急激にその規模を拡大したものの、バブル経済の崩壊や、経済の低成長化・団塊の世代の高齢化等の要因による市場の低迷化が進み、現在の規模はピーク時の50%以下にまで縮小しています。
こうした状況の中で、今後の経済や社会構造や国民のライフスタイルまで大幅に変えていくと予測されるのが、「IT」や「AI」 が支配する「第4次産業革命」の出現です。皆さんもこうした言葉を、様々な媒体で見聞きされていることと思いますが、その意味を簡単に説明します。
「IT」とは ☞ インフォメーション テクノロジー(Information Technology)の略であり、コンピューターやデータ通信に関連する技術の総称を表します。その進歩が、インターネットやスマホを生み出し、我々の生活環境や世界の産業構造を大きく変え始めました。
「AI」とは ☞ アーティフィシャル インテリジェンス (Artificial Intelligence) の略で人工的知能という意味を持ち、人間と同等か、それ以上の知能を人工的に創り出す機能を表します。
「IT」や「AI」の進化は、私たちの働く環境も急激に変え始めました。
こうした動向に関して英国のオックスフォード大学が、面白い研究論文を発表していますので、その内容をかいつまんで説明します。尚オックスフォード大学は、ケンブリッチ大学と並ぶ英国の名門校であり、令和天皇が若かりし頃留学された歴史と伝統のある大学です。

■オックスフォード大学の研究発表論文の骨子
≪結論:10年から20年後約47%の人の仕事がなくなる≫

英国 オックスフォード大学 キャンパス

Ⅰ.人から仕事を奪う3つの要因
1.供給過剰の拡大による要因
  → 需要と供給のバランスが悪化
2.技術革新の進行による要因
 → ITやAIの進化が単純作業的な職業を消滅させる 
3.消費者の行動変化の促進
 → 新たなライフスタイルの確立が、需要構造を変える

以上の三つの要因による就業構造の変化を検証すると、以下のような点が明らかになります。

Ⅱ.90%以上の確率で消えると予測される主な仕事のリスト
・銀行の融資担当者 ・電話オペレーター ・レジ係 ・弁護士助手(パラリーガル)
・ホテルの受付 ・時計修理屋 ・税務申告の代行者 ・簿記会計の事務員  その他

もしこのようなことが現実に起きるとしたら、大変なことになります。先進国における近い将来の失業率は、現在の何倍にもなるはずですから・・・。私たちのようなマーケティングに従事する人間が長らく信じてきた、 「科学や経済の進化は人類を幸福にする」といった金言は、単なる 「戯言」になってしまうわけです。
ところが現在の日本社会は人手不足が深刻化し、経営手法の転換を迫られている業種や企業がたくさんあります。皆さんの最も身近な例としては、コンビニエンスストアの営業時間の短縮問題が挙げられます。
こうした状況から判断すると、当面必要労働人口の絶対数が大幅に減少するというより、消滅する職業と今後も存続できる職業、そして新しく需要が生まれる職種といったように、 「既存の形態とは異なる就業構造が新たに生まれる」という見方もできると思います。ただし失われる職種に属する人たちには、新たな職業への転換とそれに対応できる能力の習得が必要となります。またこれから高校や大学で学ぶ人たちには、長期的な視点に立った方向性の模索と最適な学部の選択が、重要な課題となるはずです。
オックスフォード大学の論文とは別に、ある研究グループが、 「今後も存属出来る職業」について検証し発表しておりますので、これについてご紹介します。

■未来社会で失われる可能性が低いと予測される職業
この検証資料では、失われていく職業がある一方で、依然として存在し続ける職業もたくさんあることを明らかにしています。それは、人口知能やロボット等による代替の可能性が低い職業であり、約100種の職業を挙げています。その中の主なものを紹介すると、次のようになります。

・アートディレクター ・インテリアデザイナー ・フードコーディネーター
・ゲームクリエーター ・フラワーデザイナー ・ツアーコンダクター
・観光ガイド ・広告ディレクター ・コピーライター ・産婦人科医 ・内科医
・歯科医 ・獣医師 ・医師ソーシャルワーカー ・理学療養士 ・助産士
・ケアマネージャー ・社会福祉施設介護職員士 ・アロマセラピスト
・スポーツインストラクター ・教育カウンセラー ・工業デザイナー
・マーケティングリサーチャー ・IT関連職業 ・経営コンサルタント
・コンピュータプログラマー ・その他

■残る職業、失われる職業の分岐点となる要因
両者を比較してみますと、残る職業には次の要素が存在していることが、明らかになります。
1.「創造性(クリエティブ)」や「感性」が必要となる職業 → 人工知能ではまだ対応不可能な分野に属する職業
2.ロボットが製造可能な「もの」ではなく、人間の生き様である「こと」への対応が必要となる分野の職業 → 創造力の有無が決め手となる
3.長寿社会に対応できる、「健康創造」分野の職業 → これからの日本社会は、先進諸国では未経験である、総人口の減少と少子高齢化が同時且つ急速に進み、既存の福祉制度や医療制度が機能しない環境が顕在化してくる。これが「2040年問題」と称される大きな障害であり、健康に対する自助努力と、医療や介護に関する新たな職業が必要な時代が訪れる。
■我々の身近で始まっている変化
実はこうした変化は、我々の日常生活の中でも既に取り入れられ、定着化しています。
・様々な分野の工場で、これまで人が関わってきた作業工程に産業ロボットが導入され、無人化が進んでいる
・駅の改札口には、昔見かけた切符切りの駅員さんは姿を消し、大部分が無人化されている。電磁カードを使う人も増え、切符の必要性も低下している。さらに「ゆりかもめ」のように、運転手のいない列車も出現している
・人工知能の進化は、人間の持つ頭脳レベルを超えつつあり、チェスや将棋や碁といった知的な創造力を必要とする勝負の世界でも、コンピューターがトッププレーヤーと闘い、勝利を収めるケースが増加している

この二つの機能の誕生と進化は、ゴルファーの皆さんにもいろいろな局面で利便性や、新しいプレースタイルを生み出しています。インターネットによるゴルフ場情報の検索やプレーの予約、スイングの解析機器、シミュレーションゴルフ、そして今年から新ルールにより使用が可能になった、距離測定器等、枚挙にいとまがありません。
それではこうした構造変化は、令和の時代におけるゴルフ市場にどのような影響を与えるのであろ
うか・・・、この問題については次回に掘り下げて説明します。

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