第7回 「ゴルフは健康寿命を延ばす効果がある」 その2

少子高齢化社会の急速な拡大は、日本の福祉医療政策や、家庭の生活環境に大きな影響を与えることを前回説明しました。その中でも特に問題となるのが、認知症患者の増大です。このまま適切な措置を講じることが出来なければ、2040年には20兆円近くの社会的コストがかかるといった予測も出ています。その一方で、近年認知症に関する研究も進み、新たな予防対策や新薬の開発も、活発になっています。今回はこうした取り組みに関する動向と、ゴルフの持つ認知症予防機能等についてお話しします。

■平均寿命と健康寿命
左の図表は、厚生労働省と総務省が発表した平成25年度の基本データを基に、男女別の平均寿命と健康寿命を算出し、表わしたものです。
健康寿命の定義は色々ありますが、「不自由なく日常生活をおくることのできるレベル」 とするのが一般的です。したがって平均寿命から健康寿命を引いたものが、介護が必要な期間となります。
勿論個人差はありますが平均的に見れば、男性が9年強、女性が12年以上の介護期間が必要となり、病院か家庭に委ねられることになります。また60歳の男性を例にとれば、健康余命は約11年、介護期間は9年、70歳の女性の場合は、健康余命は4年、要介護期間は約12年となります。
次に認知症の場合、直ちに命の危険が生じる可能性は少なく、また発症年齢も低年齢化する兆候がみられるため、他の疾病に比べると介護期間が長くなるといった特性もみられます。さらに、家庭での介護の比率が高くなるため、家族の時間的な制約や費用の負担は大きなものとなります。私の身の回りでも、親が認知症になったため離職された方や、それほどひどくない場合でも旅行や1日拘束されるゴルフが出来なくなったという方が、かなりいます。

■認知症対策の現状
近年認知症への対策は、次のような分野で急速に進んでいます。
1.医療分野  認知症の発症を予防する新薬、治療をする新薬の開発
2.保険制度  認知症発症者に対する経済的な負担を軽減する、新しい保険商品の開発
3.社会制度  認知症患者に対する資産保全システムの導入
4.発症予防  スポーツを活用した認知症の予防

以下4.のスポーツを活用した認知症の予防対策について、説明することにします。
最近の認知症発症メカニズムの研究により、認知機能低下の予防には、有酸素運動と認知課題を同時に行うデュアルタスク運動(運動しながら頭を使う)が、効果的であることが分かってきました。簡単に言えば、①適当な体の運動、②継続的に頭脳を使う、③自然環境に触れ合う、この三つの条件を満たすことのできるスポーツが、認知機能の低下予防に効果があるということになります。こうした観点により、ゴルフは最適なスポーツであると考えられるわけです。
ゴルフは高齢者でも可能なスポーツであり、激しい運動量を必要とせず、コースラウンドでは良いスコアを出すために常に考えながらプレーをし、四季折々の素晴らしい自然と接することによりストレスを解消できるというように、3つの条件をすべて満たすことが可能です。このようなスポーツは、他にありません。
こうした点に注目したゴルフ界の識者は、ゴルフによる認知機能低下の予防効果を研究実証するため、「ウイズ・エイジングゴルフ協議会(通称WAG)」 を設立しました。

■ウイズ・エイジングゴルフ協議会(WAG)とその活動について
WAG(高橋正孝会長)は、ゴルフ界の5団体(関東ゴルフ連盟・日本ゴルフ場支配人会連合会・日本芝草研究開発機構・日本女子プロゴルフ協会・日本プロゴルフ協会)の参加により発足し、さらに日本ゴルフ協会・日本ゴルフ用品協会・全日本ゴルフ練習場連盟といった団体の後援を受け、活動を展開しています。
WAGは、国立長寿医療研究センター、東京大学、杏林大学との共同取組みにより、埼玉県日高市にある「日高カントリークラブ」において、既に様々な実験を始めています。その結果、ゴルフによる認知機能低下の予防効果があることが、確認できました。
【実験方法】
65歳以上の男女で、習慣的に運動をしていない高齢者(ただし認知症、パーキンソン病、運動禁忌等の方を除外)106名を対象とし、ランダムに、ゴルフを開始する群(ゴルフ教室)とゴルフをしないコントロール群(健康講座教室)を半々に分けた。

日高カントリークラブにおけるコースセッション風景

WAG ゴルフ教室群コースセッション参加者の皆さん

2016年10月から翌年4月まで、日高カントリークラブにおいて、ゴルフ教室群に対し、身体的、認知的、社会的活動に焦点を当てた90分間の練習セッションを14回、120分間のコースセッションを10回、全24回のレッスンを実施(週1回)。検証期間中、指導者はゴルフ知識の学習と,自宅でできるゴルフ練習を継続するように促し、教室開催中には参加者同士の積極的なコミニュケーションを促す。
コントロール群(健康講座教室)へは、健康促進に焦点を当てた90分の講座を2回開催。

【実験結果】
研修期間終了後、ゴルフ教室群53名、コントロール群47名が事後検査を受けた。その結果、ゴルフ教室群において、「文章を覚える機能」 「覚えた後すぐ思い出す機能」 の向上が明らかになった。但し今回の実験ではまだ未解明な点も多いため、ゴルフプログラムについてはさらに発展させる必要があると関係者は認識している。

■世界における動向 「GOLF AND HEALTH」
ゴルフの健康機能については、「GOLF AND HEALTH」のタイトルのもと、世界的に研究と訴求活動が展開されています。右の図表は、英国エジンバラ大学がゴルフの医学的効用を研究しまとめた成果を発表した資料の一部です。
こうした活動は、昨年開催された 「全英オープ」 「全英女子オープン」 の開場で紹介され、英国のスポーツ医学誌でもゴルフと健康効果についての評価が発表されるといったように、大きな広まりを見せています。
このほか、ゴルフは認知症だけではなく、うつ病や心臓疾患の改善にも有効であるとの研究成果も、報告されています。こうした機能を背景とし、健康寿命という概念に加え新たに、「幸福寿命」 の拡大という発想も生まれてきました。

■健康寿命から「幸福寿命」へ
医学の進歩により、近年平均寿命は飛躍的に伸びています。しかし伸びた人生をただベットの上で過ごすだけでは、寿命を延ばす意味もありません。国における医療費の拡大や、家族に対する負担が拡大するだけであり、また当人も生の喜びを実感できるわけではありません。そこで 「不自由なく日常生活をおくることのできるレベル」 という発想から生まれたのが、健康寿命という概念です。勿論身の周りの事を自らでき、家族に負担を掛けないということは、大きな意味があります。しかしその伸びた寿命を、何か楽しいことをしながら活用出来たら、より幸せなことであると思います。
そこで今ゴルフ界が提唱しているのが、「幸福寿命」「幸福ゴルフ人生」といった提案です。これまで説明したように、ゴルフには認知症やその他多くの疾患の予防や改善機能があることが、確認されています。さらにまだ研究途上ですが、認知症は中年期からその発症要因が生まれることも、解明されつつあります。
そこで、家族3世代でゴルフを始めれば、より健康で楽しい人生をおくることができるはずであると、私は考えています。あとは、こうした家族や高齢者を受け入れることのできるゴルフ界の体制づくりと、それに対する行政の支援が必要となります。そこでゴルフ界では現在、こうした 「人生100歳時代」に貢献できるような仕組みを検討し、その実現に取組んでいます。

さあ、あなたもゴルフを楽しみながら、健康で幸せな人生をおくりましょう。家族や周りの人たちでまだゴルフをしていない人がいましたら、是非誘ってください。きっと何十年か後に感謝されることは、間違いないですよ。

*ウイズ・エイジングゴルフ協会について詳しく知りたい方は、下記のホーム頁を覗いてみてください。
Withaging-golf.com

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