第9回 I TとA Iが生み出す社会とゴルフ市場の変化 その2



前回は 「I T」 「A I」 が支配する第四次産業革命の出現により、経済構造が大幅に変わること、それに伴い就業環境が 「失われる職業」 「残る職業」 「新たに生まれる職業」に分化することついて説明しました。さらに、こうした就業構造の変化を生み出す要因についてもお話ししましたが、今回からゴルフ市場に焦点を当て、その影響を検証します。

■ゴルフ産業という業種の存続について
いつの時代においても、構造的社会変化が発生する際には、これまで繁栄していた業種の存在性が低下し、ひどい場合には消滅してしまうケースが散見されます。それに伴い就業構造も大きく変わりますが、特に生活必需品ではない嗜好品や余暇関連産業において、よくみられる現象です。

左が1900年頃のエジソン社の蓄音機、エジソン・スタンダード・モデル アメリカ。右はトーマス・A・エジソン

身近な例として、音楽を例にとって説明します。人類が素敵な音楽を楽しみたいという願望(目的)は永遠になくなることはありませんが、音楽を聴くための対応(手段)に属する分野は、常に変わってきました。エジソンがレコードという画期的な機器を発明したことをきっかけに、ライブ会場に足を運ばなくても、誰でも、どこでも、いつでも、簡単に音楽に親しむことができる環境ができ、ジャンルも生活者の志向の多様化により拡大しました。
その一方で音楽を聴くという手段は絶えず進化し、音楽関連産業界では常に栄枯盛衰が生まれています。手巻き式蓄音機の時代から、電気技術の導入により生まれた電気蓄音機の時代になると、オーディオメーカーが次々と誕生し、音質を競いあいました。またより良い音を再現するには、レコード針の役割も重要で、ナガオカというメーカーはダイヤモンド等の素材を使い、世界一のレコード針を開発し、トップメーカーになりました。

初期の時代のウォークマン

その後音楽を聴く手段はITの進化とともに大きき変わり、ソニーの「ウォークマン」は若者のファッションにもなりました。この流れはさらに進み、デジタル化が進んだ現在は、スマホに配信を受け楽しむことができるようになり、レコードもテープもCDも要らなくなりました。かつては年末の一大イベントであった「レコード大賞」も、寂しいものとなっています。
このように音楽を楽しむといった目的は人類不変の欲望ですが、その手段は技術と顧客のライフスタイルの変化により急速に変わり、音楽産業の構造も一変しました。さらにAIの進化は、人工的な演奏や作曲までに可能にしました。もはや一部のマニアを除けば、既存のレコード会社やレコード針や音響機器メーカーは必要のない業種となり、この分野における職種や雇用は大幅に減少しました。
このように生活必需品でなくても、人間がより豊かな人生をおくるために必要となる目的自体は、消滅することはありません。ただその目的を実現するための手段(そこに産業や職業は存在する)の領域では、社会環境や生活者の志向の変化や科学の進化が、既存の職業を消滅したり、新たな職業を生みだしたりしながら、就業構造を変えていくわけです。現在、この構造変化の大波にさらされているのが自動車産業界ですが、この話はまたの機会にします。
さて肝心なゴルフ産業界はどうなるのでしょうか。結論を先に言えば、音楽同様にゴルフというアイテムが無くなることは絶対ありません。しかし一般生活者のゴルフの楽しみ方については大幅に変化するため、個々の業種(ゴルフ場、用品、練習場、イベント、トーナメント、ティーチングといった)や職業の存続については、大幅に変わる可能性があります。
その分岐点はどこにあるのか…、考えてみます。

■ゴルフが保有する一番重要な機能について
ゴルフというアイテムは、何故存続出来るのでしょうか。今後より一層明確になるITやAIの導入による効率化社会の促進は、それに比例してストレスを増大し、人間としての感性を失わせ、また健康障害も拡大する可能性が高くなります。ゴルフにはもともと、こうした障害から人間をガードする多くの機能を持っていますが、この点について説明します。
1.英国における近代ゴルフの始まりと、その背景となった産業革命
スコットランドのローカル遊戯に過ぎなかったゴルフは、社会環境、風土、文化、宗教等の大きな影響を受けながら、近代スポーツとしての体裁を整えていったのですが、その背景について考えてみます。
ゴルフの遊戯としての歴史は古いものの、現在のゴルフ様式が整ったのは意外に新しく、次の三つの出来事がその契機となっています。

  • 1754年 ロイヤル・エンシェントクラブが創設され、「基本的ルールの統一」 が実現した
  • 1759年 「ストロークプレー」 が採用され、競技会が隆盛化する原点となった
  • 1764年 St.アンドリュースが 「22Hから18H」 に改修され、他のゴルフ場もこれに追従した

このように 「ルールと競技方法と施設形態」 が統一され、遊戯であったゴルフが近代スポーツの様式を確立し、世界に普及する基盤ができたのは18世紀の半ばでした。 この近代ゴルフの確立と同じ時期に、英国で 「第一次産業革命」 が始まっています。

  • 1769年 ジェームスワットが蒸気機関を改良実用化し、「動力革命」 が始まる
  • 1764~1785年 産業革命の4大発明が登場し、さらに 「産業革命」 が本格化する1776年に、資本主義経済の発展に大きな影響を与えたアダム・スミスが、「国富論」 を発表している。

この「産業革命と新しい経済理論」 の誕生は、その後の物質文明と資本主義経済の発展による、「ものの豊かさ」 実現の原点となりました。 ところが近年資本主義経済は、一部の人達のモラルの低下により多くの弊害が発生し始め、人々の 「心の豊かさ」 「誇り」 を喪失させるような風潮も強まってきました。
ゴルフは 「モラルと心の豊かさ」 を重視し、「ものの豊かさ重視社会」 発展による弊害(ストレス等)の発生を抑止する、優れた機能を持っています。英国の神は、「物質的な豊かさを追求する産業革命と経済理論」 が生み出す効率社会の障害(ストレスや人間疎外等)を緩和するため、「心の豊かさを重視するゴルフ」 をセットにして我々に与えてくれたのであると、私は考えます。 それに加えて、スコットランドの風土で育まれた芳醇なスコッチウイスキーも添えて……。 それゆえにゴルフは適度な酒を嗜みながらプレーを楽しむことが許される、唯一のスポーツとなったのでしょう。この点も他のスポーツと大きく異なるところです。
ITやAIの進化を背景とする「第四次産業革命」は、当時とは比較にならないストレスの拡大や人間疎外を生み出すため、ゴルフの果たすべき役割はより大きくなるはずです。したがってゴルフというアイテムは音楽同様、人間にとってますます必要性の高いスポーツになると、私は予測しております。このほかにもゴルフは、以下のような素晴らしい機能を持っています。

2.社会的貢献機能について
近年世界的な傾向として、企業や組織が真剣に取り組みアピールしているのが、「社会的貢献的機能」と「持続的成長社会の実現」であります。ゴルは本来こうした機能を保有しているはずですが、これまで日本の関係者はあまり真剣に取り組んできませんでした。ゴルフが保有する「社会的貢献的機能」主なものを挙げると、次のようになります。

  • ゴルフ場のCO2削減機能
  • ゴルフ場の樹木や芝生はCO2を削減する機能を持ち、地球温暖化の抑止にも貢献できる

  • 防火帯としての機能
  • 米国では、ゴルフ場が山火事の延焼を防ぐ防火帯としての機能を保有すると、評価している

  • 自然環境維持機能
  • 日本の森林は管理が脆弱になり、自然破壊が増大している。一方でゴルフ場が設立された地域では管理と環境保全が継続されており、人工的ではあるが自然が良好に維持されている

  • 健康寿命の拡大機能
  • 近年世界的にゴルフの持つ健康増進機能が評価されており、その実現に対し一番大きな障害となる「認知症」についても、一定の「発症予防機能」を保有することが確認されている

  • 社会と家族の絆醸成機能
  • ゴルフは技量の異なる「老若男女」が一緒に楽しみながら、「絆」を深めることができる

このほかにもたくさんの社会的貢献機能を持っていますが、ゴルフに対する国民の評価が高まらず、ゴルフ人口が減少し続けているのが現状です。何故でしょうか。

■日本のゴルフ人口が減少する原因はどこにあるのか
これまで説明してきたように、本来ゴルフは効率化や科学優先社会が出現するほどその必要性が高まるはずですが、現実として日本のゴルフ人口は減り続けています。その原因としては、以下のような点が考えられます。
1)供給側(ゴルフ関連組織や企業)と需要側(一般生活者)における意識の乖離
前述のように、日本の産業界はゴルフが本来保有する特性や機能を活用し、ゴルフ市場の拡大に取り組んできたわけではありません。経済の高成長と団塊の世代による「ビジネスユース」の急増を追い風として、ブーム的な成長をしてきたに過ぎません。こうした環境が失われた後も供給側は長い間、ブーム期型の発想と対応をしてきました。一方需要側は、取り巻く環境の変化により、ゴルフに対する目的や必要性は大きく様変わりしています。この需要側と供給側における意識と対応のギャップが、国民の「ゴルフ飽き」「ゴルフ離れ」「ゴルフ無関心化」を促進しているため、ゴルフ人口の減少に歯止めが掛らなくなっているのです。
2)供給側におけるマーケティング意識の希薄さ
現状の低迷状況を打開するために供給側は、マーケティング意識を高め一般生活者が求めるゴルフの内容を掌握し、その上でゴルフの持つ優れた機能を織り込んだ対策を考え、アピールすることが必要ですが、そうした意識が希薄でした。ただ最近になって関係者も認識を改め、こうした取り組みが遅まきながら始まっていますので、今後は皆様が求めるような魅力のあるゴルフの形が、提供されてくると思います。

【閑話休題】
マーケティングとは何か? といった質問をよく受けます。非常に複雑で多岐にわたる要素を抱えているため、簡単に説明することが難しいのですが、一番重要な点をピックアップして表現すれば、次のようになります。

「絶えず変化するお客様の志向とライフスタイルの変化を掌握し、お客様の求める要望を満たすために必要となる方策を優先的に考え、その上で企業性とのベストマッチを実現するための戦略を考える、経済学の一ジャンルである。つまりその目線は常にお客様にある」
こうした観点に照らしてみると、このコラムを掲載している桜ゴルフさんは、マーケティング機能をうまく取り入れている、数少ない企業であると言えます。会員権業界は浮き沈みの激しい業種で、単に株のように相場を追うだけの会社は、生き残ることはできないはずです。
桜ゴルフさんは近々創業50周年を迎えるということですが、ゴルフ界全体でもこれだけ長い歴史を持つ会社は、あまりありません。
持続的な経営が可能になっている理由は色々あると思いますが、私の目に留まったのは、桜ゴルフさんの社是にある、「コンサルティング販売」という言葉です。多分お客様のライフスタイルやゴルフに対する目的をお聞きし、満足できる最適なゴルフ場を紹介する販売システムを導入されていると思います。さらに平たく言えば、常に「お客様の心に寄りそう」が理念であり、それが銀座で長期にわたり経営を持続できる源泉になっていると、私は推察しております。
また社長がゴルフ界のみならず、日本固有の伝統文化や囲碁等の支援をされていることも、高く評価されています。こうした経営手法はITやAIでは代替不可能であり、今後のゴルフ界が取組むべき方向性としても、参考となる点が多々あるはずです。このような発想や活動理念がゴルフ界に広まれば、結果としてゴルフ人口は増大すると、私は確信しております。

次回では、ITやAIの進化が皆さんのゴルフの楽しみ方を如何に変えていくか、そしてゴルフの本当の素晴らしさは倶楽部ライフにあること等について、具体的な話をさせていただく予定です。
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