前回は、ゴルフが持つ本質的な機能と優れた魅力について、説明しました。それでは我が国の現状はどうでしょうか? 残念ながらそのような、魅力的な形態になっていません。バブル経済の追い風を受けたブームが去った現在、ゴルフ人口の減少と市場規模の縮小に歯止めが掛らなくなっています。
市場低迷の原因は、どこにあるのか・・・、今回はこうした点について考えてみたいと思います。
■歴史と数字からみた日本と英国、米国との比較
ゴルフ発祥の地イギリス、最大市場規模を誇るアメリカ、そして日本は、現在三大ゴルフ国と言われています。この三国におけるゴルフ特性を、夫々の簡単な歴史と市場関連数値により比較してみます。ゴルフの発祥地と創生時期の特定については様々な議論がありますが、私は単なる遊戯であったものが、「競技ルールの統一」「競技方法の確立」「施設形態の統一」の三つの課題をクリアーし、近代的スポーツとしての条件を確立した時期を始まりとするのが正しいと考えています。
1.競技ルールの統一1754年 ロイヤル・エンシュエントクラブ設立 「基本ルールの統一」実現
2.競技方法の確立1759年 「ストロークプレー」採用 その後の競技会隆盛の原点となる
3.施設形態の統一1764年 St.アンドリュースが「22Hから18Hに改修」他のコースも追従
この3条件を満たしたゴルフ形態を確立したのが、18世紀半ばの英国(スコットランド)でした。それが英国をゴルフ発祥の地とする根拠になっています。またこの近代ゴルフの確立と同時期に英国で、「産業革命」が始まっています。ゴルフが進化し世界に普及するうえで、産業革命は大きな役割を果たしたのですが、この話はまたの機会にします。
次に、夫々の国において近代スポーツとしてのゴルフがスタートした時期と、ナショナルオープンが初めて開催された年次を調べてみると、以下のようになります。注:( )内の数字は夫々の国における現在のゴルフ場数と世界比を表す
1.英国 1776年 2.米国 1889年 3.日本 1901年 |
以上のように近代ゴルフの歴史からみれば、日本は英国と135年の遅れがあるものの、米国とは12年程度の差しかありません。しかし戦前の日本におけるゴルフは、限られた地域と特殊な階級層のアマチュアゴルファーを中心としていたため、米国とは比較にならない規模でした。ちなみに初めて神戸ゴルフクラブが開場してから30年たった昭和の初期でも、わずか8コース程度のレベルでした。それが戦後米国型の「商業主義的ゴルフとトーナメント」が導入されると、折からの日本の高度経済成長を背景に急激に拡大したのです。この市場変化を[表―1]整理しましたが、この数字を見ていただければ、いかに日本のゴルフ市場がバブリーな拡大をしたのかが、お分かりいただけると思います。
[表-1] ゴルフ場数、年間利用者数、推定ゴルフ人口の経年変化 | |||||
年次(年) | 昭和31 | 昭和47 | 平成元 | 平成5 | 平成26 |
①ゴルフ場数(場) | 73 | 669 | 1,772 | 2,127 | 2,364 |
②年間延利用者数 (万人) |
141 | 2,881 | 8,996 | 9,936 | 8,675 |
③推定ゴルフ人口 (万人) |
15 | 250 | 650 | 1,110 | 850 |
出典: ①と②はJGA、NGK発表資料 ③はJSMI発表資料による |
日本は、英国や米国のような熟成型の健全成長と異なる、速成栽培的な市場成長でしたが、こうした市場が生まれた原因とその問題点について、以下説明します。
■日本のゴルフの問題点
短期間に巨大な市場を形成した(規模から見れば米国に次いで二番目)日本ですが、次のような固有の特性と多くの問題点を抱えた、かなり無理なゴルフ市場の拡大であったと言えます。
①ゴルフの普及に必要な条件に照らし合わせてみると、日本はけして良いと環境とは言えなかった。それは一般的な国民における「余暇時間・余暇費用の不足」、「余暇に対する価値観の特殊殊性」、さらに「土地環境の悪さ」が挙げられる。
②日本は国土が狭い上に平地が少ないため、住空間に近い場所でのゴルフ場建設が難しかった。そのため、遠隔地や山岳地のコースが多くなっている。それが一方で非日常的なゴルフを形成し、他方で自然環境破壊を促進するといった批判を生じる原因となった。 現在ゴルフ市場の停滞と、社会問題となっている事象の多くは、この二つの流れが発生要因となっている。
☞バブル経済の最盛期には、東京23区の土地価格を換算すると、米国が4つ購入できると言われていた。このように土地価格が非常に高い日本では、大規模な面積が必要となるゴルフ場経営は、もともと適していなかったはずである。
③日本におけるゴルフは、1901年に英国人アーサー・グルームが神戸六甲の地に建設した 「神戸ゴルフクラブ」 の発足とともに幕を開けたが、それは英国のアマチュア重視の古典的・伝統的ゴルフを基盤とする形態であった。 ところがゴルフが産業としての基盤を形成したのは、戦後の米国文化のの流入とともに導入された 「商業主義、プロゴルファーを基軸とする米国型ゴルフシステム」 であった。この性格の異なる二つのゴルフ形態を取り込んだ戦後日本のゴルフは、多くの矛盾と問題点を抱えながら市場規模を拡大していったのである。
④こうした根源的な矛盾が存在する中で、昭和40年代に入ると日本経済は高成長期を迎えた。ゴルフはビジネス活動促進の道具として重用され、一方で国民の間に浸透した 「一億総中流志向」を追い風として、ゴルフのバブル的拡大を促進した。 そこから生まれた日本固有のゴルフ形態が、「男性・アダルト・ビジネス・ステイタス」 型ゴルフである。その結果日本では、「英国型ゴルフ」と「米国型ゴルフ」と、「日本固有型ゴルフ」の三つの形態が混在するという、複雑な市場が出来上がったのである。
☞この時代「ゴルフウィドウ」という言葉がよく使われました。 猛烈サラリーマンのご主人は、日曜日もお得意先の接待でゴルフ場へ・・・、残された奥様は「さながらゴルフが生み出した未亡人」であるといった意味であり、家族も同じ思いをしていたはずです。
⑤その結果本来 「老若男女の全てが親しめる全年齢型スポーツ」 であるはずのゴルフが、実際には一部の特殊な人達に都合のよい「非日常的ゴルフ」が主流となった。 これは英国流の 「アマチュア至上主義」 でも、米国流の「誰でもいつでもできるスポーツ的ゴルフ」のいずれでもない、日本固有のゴルフ形態であった。
■日本のゴルフ市場の現在
1990年代に入り、バブル的経済が崩壊するとともに日本のゴルフ市場は急激に縮小し始め、ピーク時の半分以下になっているが、現在もその流れに歯止めが掛っていません。さらに大きな問題として、日本のゴルフ市場拡大のけん引役となってきた「団塊の世代」が定年退職し、ビジネスゴルフの必要性が無くなると、活動率が大幅に低下しました。またこの世代の男性の参加率は十数パーセントを超えていましたが、女性の参加率は2パーセントにも達していませんでした。その結果、夫の退職に伴い夫婦が一緒に楽しめる余暇・スポーツへの転向が増え、男性の大幅なゴルフリタイアが生まれ始めています。
その一方で若い人達は、日本固有の「男性・アダルト・ビジネス・ステイタス」ゴルフに馴染めず、ゴルフ人口と市場規模の縮小に歯止めが掛らなくなっているのです。
2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、ゴルフも競技種目として採用されています。その追い風が吹いているはずですが、ゴルフ人口は現在も減少し続けており、期待されている五輪効果はみえていません。
■危機感を持ったゴルフ界の新たな取組み
現在のゴルフ環境は、バブル期に比べ非常に参加しやすい状況になっています。
・ビジターのゴルフ場利用料金は、ピーク時の半分以下になっている
・非会員でもほとんどのゴルフ場の予約が可能である
・ゴルフを教えてくれるPGAのプロゴルファーも、全国で5000名以上いる
・会員権も非常に安くなっており、購入できるチャンスが大きくなっている
それでもゴルフ人口は減少し、若者の「ゴルフ無関心化」、中高年層の「ゴルフ離れ」に歯止めを掛けることができていません。
そこでゴルフ界の様々な組織がアンケート調査を実施したところ、多くの意見が寄せられました。
「ゴルフは何か敷居が高い感じがする」 「お金がかかりそう」 「ルールが難しく楽しくない」 「時間が掛りすぎる」 「コストパフォーマンスが悪い」 「親父の遊び的なイメージが強い」 「プロゴルファーのイメージが悪い」 「一緒に始める仲間がいない」 等々・・・・、非常に厳しい内容でした。
こうした状況に危機感を持ったゴルフ業界は、ようやく「新しい時代背景や、若者や女性層に愛されるゴルフとは何か」を考えるようになり、様々な根本的な改革への取り組みを始めています。このような動きは日本だけではなく世界的に見られますが、英国や米国でもゴルフ人口を拡大するため、次のような様々な改革への取組みが始まっています。
①一般ゴルファーの視点に立った分かり易いルールへの改正(来年1月1日より実施)
②女性ゴルファーの拡大に向けた取組み
③ゴルフの持つ健康拡大機能活用に向けた研究
④子供達が興味を持つゴルフイベントの開催
⑤親子三世代が一緒に楽しめるゴルフへの取組み
⑥短時間で楽しめるゴルフプレーシステムの検討
⑦ゴルフを通じた家族、仲間、職場におけるコミュニケーションの拡大
■今日本が抱える未来への課題
かつての国民と企業と国が、「三位一体」で豊かになることができた時代は終わり、日本の未来は非常に厳しくなっていくと予測されています。
・超高齢化社会による福祉医療関連費用の増大と、それを支える世代の少子化による税収の減少
・団塊の世代の全てが後期高齢者(75歳以上)になる2025年以降、国の財政は急速に悪化する
・それを回避するため、国は福祉医療関連支出費用の大幅な削減施策を実施する
・2040年以降高齢者の4人に1人が「認知症」になると予測され、家族の負担は限界になる
・その結果既存の社会福祉制度(年金、医療保険等)の破綻危機が増大する
・自らの健康管理と維持は、自ら取組まなければならない社会システムに移行
・一方で、家族や地域や会社等におけるコミュニケーションシステムが機能しなくなる
このような暗い未来を回避するため、国は高齢者がスポーツをすることにより健康寿命を延ばす取り組みを始めています。そのスポーツとして注目されているのがゴルフであり、認知症に対する予防効果他、様々な研究が進んでいます。また三世代、地域の仲間のコミュニケーションを深めるためのゴルフへの取組みも、進んでいます。こうした新しい取組みについては、次回よりご説明します。
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