第5回 「ルールが変わる、ゴルフが楽しくなる」 その2




平成最後の年度となる年が明け、5月から新年号による時代が始まります。4月末までは 「平成最後の○○○」、そして5月からは 「新年号初めての○○○」 といったフレーズや行事が氾濫することでしょう。さらに10月には、歓迎できない消費税率10パーセントも、導入されるはずです。何れにしても今年は慌ただしい1年になりそうですね。
こうした年のゴルフの初打ち、皆さんはもう出かけられましたか。クラブ競技会等に参加されたゴルファーは、1月1日から導入された新ルールでのプレーを経験されたと思いますが、いかがでしたか。前回はゴルフルールが難解で複雑になった原因や、新ルールの導入が必要となった背景等について説明しましたが、今回はこの新ルール導入が目指す方向と、具体的な改定内容の概要を説明します。

■新ルール普及への取組み

日本ゴルフサミット会議新年会 JGAの新ルール説明講演会

皆さんは、「日本ゴルフサミット会議(以下サミット会議と称する)」という組織をご存知ですか。一般ゴルファーの方はほとんど関心がないと思いますが、ゴルフに関連する16の団体が参加して結成した組織で、十数年の歴史があります。何をする組織かと言いますと、「ゴルフ界の個々の団体が結集し、よりゴルフを楽しんでいただくための取組みを考え実行していく」 という理念を掲げ、活動しています。プロゴルファーやトーナメント、ゴルフ用品業界、ゴルフ場、練習場等、ゴルフに関連する分野の主要な団体はほとんど加盟しています。公益財団法人日本ゴルフ協会(通称JGA)もその中のひとつで、約1400のゴルフ場会員で構成され、ルールの管理と普及、ジュニアゴルファー、トップアスリートの育成等に取り組んでいますが、日本のトーナメントの最高峰である 「日本オープン」 の主催者でもあります。
今回の新規則の適用に当たり、その変更内容の理解を深めるのもJGAの重要な役割であり、昨年から全国のJGA会員ゴルフ場やメディアへの説明会を実施してきました。そして本年1月16日に開催されたサミット会議の新年会で 「ゴルフの普及を目指した新しいゴルフ規則」 と題する講演会を実施しました。このサミット会議の講演会には600人近い加盟団体の役員や経営者やメディア関係者が参加し、変更点の説明に耳を傾けました。
変更点は前回説明したように、「分かりやすく、簡単に、不要な罰をなくし、プレー時間の短縮に役に立つように」 を主眼とするものでしたが、もともとゴルフルールは非常に難解であり、旧ルールも十分に消化していない私が、そのすべてを理解することは不可能でした。それでも保守的なゴルフ界が、時代の変化に対応しようと努力する姿勢は、随所に感じることができました。
簡素化したと言っても、その内容は多岐にわたっています。そして変更点については、グリーン上の対応に関するものが多いようですが、詳しい内容はJGAが 「ゴルフ規則(1400円)」 を発刊していますので、そちらをご覧ください。さらにそれを要約した「プレーヤーズ版(600円)」 という小冊子もありますので、キャディーバックにでも入れておくと、いざというとき便利でしょう。そういうわけで、ここではゴルフをグッドライフの友とする 「エンジョイ派ゴルファー」 にとってプラスになると思われる主な変更点を、ピックアップして説明します。

(注 文中の 以下の記述は、筆者の極めて主観的な所感です)

■エンジョイ派ゴルファーに役立つ主な変更点

①距離計測器の使用

まず一番画期的と思われる変更は、距離計測器の使用が可能になったことです。但し計測できるのは2点間の距離だけであり(打つ場所からグリーンやバンカーや池等)、高低差やその他のプレーに影響する状況の計測は禁止されております。それでもセルフプレーの場合、随分役に立つと思います。

☞ 計測器の導入は、セルフプレーの課題であったプレー支援情報欠如問題の一部を解決でき、利用費用の削減効果も相まって、利用者の拡大が期待できる

②プレー時間短縮への対応

プレーヤーは通常、自分の番になってから40秒以内でストロークを行なわなければならない。また安全が確保できれば、球の位置に関係なく、準備ができたプレーヤーからプレーすることができる。球を探す時間は、現在の5分から3分に短縮する。

☞ ゴルフは時間が掛るといった利用者の意見に少しは答えることができるが、反面施設側の経営効率を上げるために活用する傾向が強まると、ゴルファーの楽しみを奪いゴルフ離れを誘発する危険性も高まる

③バンカー内における救済措置

  • 球がバンカー内にある場合、ルースインペディメント(木の葉、枝、石などの自然物)に触れても罰はなく、取り除くこともできる。
  • アンプレアブルの処置の拡大 → 現在の1罰打のほかに、2打罰で球とホールを結ぶ線上でバンカー外の後方にドロップできる(詳しくはルールブック参照)。この両措置により、バンカー内の置けるトラブルの解消と、プレー時間の短縮が可能となる

☞ バンカーでのトラブルや苦行は随分解消され、プレーの進行もスムーズになると思われる

④ドロップの方法に関するもの

JGA 「2019年規則」 の主な規則の解説資料より

ドロップは、現在の肩の高さから膝の高さに変更になる。このことにより球が大きく転がり再ドロップをするといったケースが減り、プレーの遅延を防ぐことができる。
☞ 肩の高さに比べ、膝の高さの解釈は曖昧になりがちで、あくまでプレーヤーの自己規制心に委ねられる

 

⑤ストロークに関するもの

  • ストローク中に複数回球を打った場合(偶然の2度打ち)、罰はなくそのストロークを1回と数える。
  • ストロークした球が偶然何か(自分自身、自分のキャディー、用具、共用カート等)にあたった場合、罰はない。

☞ このストロークに関する規則の変更は、不要な罰をなくすという改正趣旨が投影されていると思われる

⑥グリーンに関するもの

JGA 「2019年規則」 の主な規則の解説資料より

  • ホールに旗竿を立てたままパットをして、その球が旗竿にあたっても罰はない。したがって旗竿をたてたままパットをすることができる。
  • パッティンググリーン上の球をマークして拾い上げて、元の位置にリプレースした球が偶然動いた場合、その原因が何であったとしても罰なしに基に位置にリプレースしてプレーができる。
  • パッティンググリーン上にある球をキャディーがマークして拾い上げる場合、プレーヤーの承認は必要ない。

☞ この変更もストロークの場合と同じで、シンプルで分かりやすくという視点によるものであると推測される

⑦その他

  • 規則に基づき救済を受ける場合は、球を別の球に変えることができる。カート道路、修理地、水溜り、地面に食い込んだ球などの罰なしの救済の場合であっても、球を取り替えることができる。
  • 球を捜査中に自分の球を偶然に動かしてしまっても罰はなく、その球を元の位置にリプレースする。

【まとめ】
今回取り上げた以上の改正点の説明は、新規則のほんの一部に過ぎません。しかしプレーヤーがこれらの規則の実行にあたっての根源的な前提条件は、従来の規則とまったく変わっておりません。それはプレーの際に審判がいないこと、判断とルールの適用はプレーヤー本人に委ねられ、必要であれば自らに罰を科すゲームであるという、ゴルフ固有の前提条件です。したがって、プレーヤーは 「ゲームの全ての面で誠実で、正直でなければならない」 ということが、今回の改正ルールの中にも明記されています。この前提条件がゴルフの素晴らしい点であり、悩ましいところでもあると私は考えております。

■新規則の実施に伴う課題と問題点

既にいろいろな業界での説明会や、多くのゴルフ場で新ルールを導入した競技会も実験的に実施されていますが、それに伴い多くの課題や問題点も指摘されていますが、そのいくつかを挙げてみます。

  • 世界的な取組みである、ゴルフ人口の拡大を図るためのルール改正という観点からみると、日本における対応に関しては限界があるように思われる。現在のゴルフ界の取組みは、既存ゴルファーに対するものがほとんどで、ゴルフをしていない人達に対する効果的なアプローチが見当たらない。これは一般メディアの、ゴルフに対する無関心さの影響もあると推測される。
  • 現在ゴルフをしていない一般生活者は、旧規則を全く知らず比較ができないし、この改正によりゴルフを始める強い動機が新たに生まれるとも考えにくい。
  • プレー時間に関しても、この程度の改正では大幅な短縮は無理であり、またゴルフ場から遠い都会に住む人たちには、その往復に費やす時間の比重の方がはるかに大きい。
  • こうした状況を考えると、ゴルファーのためというよりゴルフ場側の経営効率向上のためといった受け止め方も出てくる可能性がある。
  • 旧規則に馴染んできた既存ゴルファーは、新規則への切り替えにより従来の対応がペナルティーの対象となるため、当面はストレスが高まる懸念もある。

このほかにもまだまだ多くの問題点が指摘されていますが、遅まきながら世界のゴルフ界が 「アスリートファースト」 の姿勢から、ゴルフをしない女性や一般生活者の志向を重視し、ゴルフの新たな楽しさを創造していくといった目的の実現に向けて、大きな方向転換を図っているということは間違いないと思います。今回のルール改正はその第一歩であり、今後ゴルフ界が試行錯誤を重ねながら、より多くの人が楽しむことのできるゴルフの創造に向けた取組みを、さらに強化していくことに期待しましょう。

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