■はじめまして
桜ゴルフさんのホーム頁で、「あなたの人生をもっと豊かにする倶楽部ライフ」と題し、8月から執筆を始めることになりました日本スポーツマーケット研究所の廣瀬です。これから宜しくお付き合いください。
と言ってもゴルファーの皆さんは、あまりお聞きになったことがないでしょう・・・、日本スポーツマーケット研究所の名称や廣瀬という名前も。
私はもともと商社や流通業界の企業を中心に、マーケティングやコンサルティングの仕事を手掛けていましたが、30年ほど前からスポーツやゴルフ業界にも関わることになり、日本スポーツマーケット研究所を新たに設立しました。
それではゴルフ界で、どのような仕事をしているのか、少しご説明します。
簡単に言えば、「ゴルフというスポーツを健全に普及していくために何が必要か」 についての研究です。その研究成果を政府機関やゴルフ界組織への提言や、ゴルフ関連企業のコンサルティングに活用し、ゴルフ業界の専門誌で執筆するといった活動を続けてきました。したがってゴルファーの皆さんと直接触れ合うことはありませんでしたが、皆さんがゴルフを始める際に体験されたゴルフスクールの仕組みや、現在お使いになっているゴルフギアのコンセプト開発等、様々な分野で間接的なお付き合いをしてきました。こうした説明をしますと、何か難しい仕事をしているような感じがするかもしれませんが、早い話 「皆さんにいかにゴルフを楽しんでいただける環境や仕組みを提供するか」 というテーマに、黒子的な立場で30年以上取り組んできたわけです。
この間ゴルフ発祥の地スコットランド、ゴルフ最大市場の米国を初め二十数か国の訪問し、夫々のゴルフ市場特性の研究や関係者との意見交換により文化の違いを学び、また大学におけるゴルフの運動生理学的解析の共同研究に取り組む等、様々な体験を重ねてきました。
このような体験により得た、ゴルフの素晴らしさ、夫々の国により異なるゴルフライフや倶楽部ライフの在り方、感動したゴルフとの出会のシーン等、皆さんがあまり見聞されことのたないゴルフの魅力的な側面を、この連載をお借りして紹介していきたいと思います。
■コンサルティング型経営とはなにか
桜ゴルフさんの経営理念の中に、「ゴルファーへの奉仕」、「コンサルティングビジネス」 といった言葉がありますが、これまで日本のゴルフ界の供給側に一番欠けていたのが、この二つの考えでした。即ち 「ゴルフ市場の中心となるのは需要側の皆さんであり、供給側の関係者や企業ではない」 というサービス業では当たり前の原則が、ゴルフ界の関係者の間に十分に理解されていませんでした。今問題となっている片山晋呉プロのプロアマ競技会における騒動もその悪しき事例でしょうが、このようなトラブルはいたるところで見られます。「ゴルファーへの奉仕」 という意識が供給側の関係者に浸透していれば、今回のような低レベルなもめ事は生まれないはずです。
その上で重要となるのが、桜ゴルフさんと筆者が掲げる 「コンサルティング」 という概念です。
プロゴルファーのゴルフに対するスタンスは「10人一色」であり、生活をより豊かにするために多くのお金を稼ぐことが目的ですが、一般生活者の目的は豊かな人生を享受することにあり、ゴルフはその手段のひとつにすぎません。皆さんがゴルフに求める満足感は様々で、「10人十色」であります。「健康のため」「仲間と楽しむため」「夫婦や家族の絆を強くするため」「自然と親しむため」・・・・。ゴルフとは、本来こうした様々な目的を満たすことのできる、幅の広い機能と優しさを持つ素晴らしいスポーツであります。
この「10人十色の、夫々の目的に最適なゴルフライフは何か」を考えるのが、コンサルティングの使命です。桜ゴルフさんでは、皆さんの求めるゴルフライフをお聞きし、最適なゴルフコースをお勧めするという経営理念を、創業以来50年近く続けています。これがコンサルティング型の経営であり、まさに 「ゴルファーファースト」 の経営指針であります。日本スポーツマーケット研究所も、同じ視点から多様化したライフスタイルをお持ちになる国民の皆さんに、夫々が求める最適なゴルフライフを楽しんでいただける仕組みと、「ゴルファーファースト」の視点に立ったギアの研究に、取り組んできました。
■日本のスポーツ界、ゴルフ界変革への胎動
現在日本のスポーツ界は、これまでにない地殻変動に見舞われ、揺れ動いています。おりしも2020年に「東京オリンピック・パラリンピック」の開催が予定され、国民のスポーツに対する関心が大いに高まっているはずの時期ですが・・・・。
オリンピック等で華々しい成果を挙げてきた女子レスリング界のパワハラ問題、国技と称される大相撲でくすぶり続ける暴力問題、今大騒動となっているアメリカンフットボール等々、枚挙にいとまがありません。ゴルフ界でも、片山晋呉プロのプロアマイベントにおける対応問題が、連日メディアによるバッシングを受けております。
こうした様々な問題は、決して偶発的に同時多発化しているわけではありません。明治以来の長きにわたり行政が続けてきたスポーツに対する考え方と仕組みが、急激に進む時代の変化に対応できなくなってきたことが、根源的な要因として挙げられますが、その象徴の一つが 「学校体育」 という名称です。
それではこの日本固有の「学校体育」と、世界共通の呼称であるスポーツとは、どこが違うのでしょうか。
世界の自由主義国を見渡しても、スポーツを学校教育の手段として導入している国は、多分日本以外見当らないでしょう。スポーツに課せられた本来の理念や目的は、文部科学省が統括する「学校体育」とは全く異なるものであるはずです。
スポーツとは如何なるものか・・・、まずその語源を簡単に説明します。
スポーツの英語のスペル「Sports」の語源は、ラテン語の 「Deportare(デポルターレ)」 にあるとされます。もともとの意味は、「あるものを別の場所に運び去る」ですが、それが転じて「憂いを持ち去る」「荷を担わない、働かない」となり、さらに古フランス語の 「Desporter(仕事や義務ではない、気晴らしをする、楽しむ)」 となり、英語の「Sports」になったとする説が一般的です。
即ち一般のアマチュアにとってスポーツとは、仕事や日常生活で蓄積するストレスを解放する手段であり、目的は楽しい人生を送ることにありました。ところがスポーツがより広まっていくと、高度なレベルの技量を持つ人達が増え、それを職業とするプロも多くの種目で誕生しました。彼らにとってのスポーツとは、生活を営むための対価を得る手段であり、楽しむことが目的ではありません。今回の片山晋呉プロのプロアマイベントにおける問題発生要因も、原点はこの辺にあるような気がします。
次に問題となるのが、日本固有の 「学校体育」 という概念と、その仕組みですが、これについても簡単に説明します。
明治維新以来わが国では「富国強兵、殖産興業」を国策として進め、そのための人材育成を目指した「義務教育制度」をいち早く取り入れてきました。こうした背景があったため、「遊び戯れる」というスポーツ本来の意味や機能は行政により容認されず、「学校における体の教育」といった視点の強い、「体育」という名称が一般的になりました。昭和初期にはこの傾向はさらに強まり、文部省(現文部科学省)の管轄により、スポーツが持つ本来の役割とは遊離した形で育まれてきたのです。
太平洋戦争終了後、アメリカ文化の流入と共に日本でもスポーツを職業とするプロが、様々な種目で誕生しました。それに伴い戦前に存在した日本の多くのシステムは変わったのですが、体育という呼称や行政主導の学校における教育の一環であるという概念は、そのまま残されました。日本体育協会、国民体育大会等の名称も、その名残りと言えるでしょう。
ゴルフが日本に導入され約120年、日本プロゴルフ協会が誕生し、既に60年の歳月がたちました。
現在も、ゴルフを学校体育に組み込むことは難しく、若い層にゴルフが浸透しない要因となっています。ゴルフは広い敷地や特殊な指導が必要であり、日本の地理的環境では困難であるといった要因も指摘されていますが、一番大きな問題は、ゴルフの持つ自由さやスポーツ本来の機能が日本の行政の方針にそぐわないとする、文部科学省の考え方が大きな影響を与えていたような気がします。
こうした状況の中で現在、日本のスポーツ界は大きな転換期を迎えようとしています。
文部科学省内にスポーツ庁が設立され(2015年10月1日)、官僚ではない鈴木大地氏(水泳の五輪ゴールドメダリスト)が、初代長官に就任しました。
今年、日本体育協会は 「日本スポーツ協会」 に、国民体育大会も 「国民スポーツ大会」 に夫々名称を変更し、新たな取組みをすることになりました。
そしてゴルフの持つ多くの優れた機能が、今注目されております。
・ゴルフの予防医学的な効果(認知症等)
・地域、家族、夫婦、仲間の絆を深める機能
・人と人、人と自然の触合い機能
・日常生活で生まれるストレスからの解放機能
・老若男女、三世代の誰でもが同じフィールドで楽しめる機能
また危機感を持ったゴルフ界の関係者や組織の間でも、「スポーツとしてのゴルフの在り方」 や、 「ゴルファーファースト」 のスタンス確立を目指した動きが、活発化してきました。とかく難解であると言われていた競技ルールも大幅に改正され(2019年より適用)、誰でもが親しめる環境も整ってきました。
ゴルフ界の多くの組織や識者は、皆さんの「しあわせと満足感」を生み出すスポーツとしてのゴルフを目指した、新たな取組みを始めています。このようなゴルフの持つ優れた機能や、ゴルフ界の取り組みについても、これから紹介させていただきます。
この連載をお読みいただいても、皆さんのゴルフの腕前が上達するわけではありませんが、ゴルフライフを少し豊かにするための、知識や楽しみ方を発見できるのではないかと思います。
ご愛読を頂きますよう、お願い致します。
以下次号